第2回 平成15年度から17年度の問題より:記号選択・漢字語句問題
貝塚講師(中学受験鉄人会スーパープロ家庭教師)
今回は『記号選択・漢字語句問題』の対策をテーマとします。前回にもご紹介しましたように、同校の問題構成の中では、「より短時間で解き、より確実に得点すること」が求められる単元となります。
一般に記号選択問題の解き方には以下のような「鉄則」があると言われます。
- 4択・5択であれば2択まで絞り込む。
- まずは消去法から始める。「明らかに間違っている内容」「書いてある内容は正しいが、本文には書かれていない内容」(特に後者に注意して)は消去する。
- 「言い過ぎ」の表現は疑って見る。
- 各選択肢の中の「キーワード」に注意する。
- 選択肢の語句と文章中の語句は必ずしも「一致」はしないので、「類義語」を見つける。
- 選択肢の文章が長い場合には、前半部・後半部に分ける。
- 1問あたりに時間をかけ過ぎない(1問あたり1分半から2分で)
こうした基本事項は、どの学校の問題かに関わらず重要です。
(1)『記号選択について』
早稲田中では、記述問題の出題頻度が近年になって増加してきていますが、それでも記号選択問題の割合は高く、多くの中学校が記述への傾向を強めている中にあって、独自路線を突き進んでいる、とも言えます。
まず「平成16年度・第1回」の第1問「物語文」を取り上げます。出典は重松清の『半パン・デイズ』です。
これまでも同氏の作品は他校でも多く出題されてきた「定番」であり、本年度も短編集『小学五年生』から7校が出典を選びました。重松清の作品が中学入試問題で頻出となる理由に「主人公の年齢が受験生の皆さんと同年代である」こと、またその内容も「さまざまな事件を通して、主人公の心情が変化し、成長して行く」といったものが多くあることが挙げられます。そこから自ずと問題のポイントも、「心情の説明」「事件を通しての人物の心情変化」が問われることが多くあります。顕著な例が「麻布中・平成17年度」の問題です。麻布の特徴である最後の記述問題のテーマが、「二箇所の少年の様子から、心情の変化を説明する(解答欄6行分)」といったものでした。早稲田中の場合は、同じ重松清でも長文記述は出題されず、平成16年度の問題でも小問9問中記号選択が6問、と大半を占めました。
それでは麻布と早稲田で文章の読み方は変わるのか、となると、もちろん長文記述の備えが必要か否かの違いはありますが、大きくは変わりません。つまり「物語文」では、
- a心情変化のきっかけとなる事件に注意する
- bその変化が表されている人物の言動をマークする
- c心情を表すキーワードを見逃さない
といった点をしっかりおさえながら読む、という点は問題形式に関わらず共通しているのです。
それでは平成16年度・第1回の問題の具体的考察に進みます。 物語の概略は「東京から引っ越してきて小学校に上がる主人公「ぼく」と、東京に引っ越して中学校に上がる「ヨウイチくん」が主たる登場人物。ヨウイチくんに連れられたぼくが、小学校や海を見て回りながら、地元を離れて行くヨウイチくんとの心の通い合いを進めて行く」といった流れになります。
まず文章を読むうえでのポイントですが、本文のように二者が際立って存在する場合には「会話文」に徹底的に注意することが必要です。それぞれが相手にどのような言葉を投げかけているのか、その真意は何なのか、を踏まえながら読み進めましょう。上記aからcの「心情変化」「キーワード」にも注意をしながら読み進めて下さい。
そこで、問題考察に進みますが、記号選択6問のうち、今回は「問2」と「問3」を選び、内容を確認してみましょう。
問2:「『ぜんぜん言葉が違うんじゃのう、ほんま』と少しびっくりしたように」とありますが「ヨウイチくん」は驚いた理由は何か…
- ア・この先、「ぼく」とよい友達としてやっていけるか不安だから。
- イ・「ぼく」の言葉を聞いているだけで、恥ずかしくなってしまうから。
- ウ・自分の言葉が、周囲の人から奇妙に思われはしないかと心配だから。
- エ・テレビで見た劇で話される言葉を、初めてじかに聞いて感心したから。
ここで先に記しました(1)から(7)の「鉄則」を思い返しながら進めてみましょう。
まずは(4)の「キーワード」です。それぞれの文末に「心情を表すキーワード」が並んでいますね。「ア=不安」「イ=恥ずかしく」「ウ=心配」「エ=感心」といった言葉です。 まずは「エ=感心」に注意します。問題で問われている「言葉の違い」については、文章の始まりから一連の会話が交わされています。その中でヨウイチくんの「聞くほうが恥ずかしゅうなるで」(11行目)との言葉がありますので、「感心」は相応しくない、と判断出来ます。ここで「エ」を消去します。そこですぐに「イ=恥ずかしく」が当てはまりそうですが、そこには大きなポイント!(罠)があります。物語文の選択肢では、細部だけで勝負をつけようとすることは大変危険になります。「全体まで見通す」作業が必要となるのです。
今回の文章の場合、全体を通しての「心情の変化」については「ヨウイチくんが抱える悩みに触れて、ぼくのヨウイチくんへの印象が変わる」こと、また「東京へ行くことへの大きな不安に駆られていたヨウイチくんが、ぼくと話すことで、気持ちが軽くなってゆく」こと、といった点に集約されています。つまり「ヨウイチくんのぼくへの印象」が「マイナス→プラス」と大きく転換することは際立っていません。
その点で、ぼくへの印象がマイナスと見られる「ア」は消えます。そこで「イ」と「ウ」です。本文の最後にあるヨウイチくんの「田舎から引っ越してきたいうてバカにされりゃせんど」という言葉がポイントになります。さらに会話文の前後に注意すると、「すごくうれしそうな顔」「急にこどもっぽくなったみたいだ」といった表現に「ヨウイチくんの心情が変化したこと」が見て取れます。つまり、「東京へ行くことへの大きな心配」がヨウイチくんに大きくのしかかっていたことが、「それから解放されたヨウイチくんの様子」からはっきりと理解できるのです。ここで勝負が着きました問題該当部では、ヨウイチくんは心配から解放されていません。選択肢の「ウ」が、ヨウイチくんの心情を的確に表していることで、正解は「ウ」となります。一見正解に見えた「イ」は罠とも言えるのです。
早稲田中の物語文選択肢は、決してひねくれた問題ではありません。「イ」のような選択肢があることは、「細部表現だけで結論を出さないこと」の顕著なサンプルになります。先に記したa・b・cに留意しながら、必ず「全体の心情の流れを把握」してから解くことが大事となります。
次に「問3」です。
問3:「くぐもって沈んでいく声をぐいっと持ち上げるように」の表現に見られる「ヨウイチくん」の気持ちとしてふさわしいものは…
- ア・東京について何も知らない自分が恥ずかしいが、いさぎよく打ち明けてしまったほうがよい。
- イ・引っ越し先での生活が心配でたまらないが、「ぼく」の手前、弱気なところは見せられない。
- ウ・中学のことが何もわからず気になってしかたないが、恐れることなく気軽に考えていこう。
- エ・これで小学校の校舎も見納めでさみしいが、夜行の寝台に乗る楽しみを思えば平気だ。
まず選択肢を見てはっきり分かることが、すべて「前半・後半」に分かれ、どれも「…だが …」のつなぎとなっていることです。こうした型の共通する選択肢が出されることも早稲田 の特徴でもあります。
すぐに鉄則(6)の「前半・後半」に分けて考える、を実施する前に、問2にも通じる「全体 からの心情把握」に留意しましょう。この場面では、文章全体を通して表される、「東京へ 行くことへのヨウイチくんの心配」が顕著に表されているところです。問題該当部の直前 にある、「なんも知らん」「なーんも、わからんよ・・・」のヨウイチくんの言葉からもそれ が理解できます。
そこでまず「エ」はまっさきに消去しなければなりません。また「ア」の「恥ずかしさ」と「心配・不安」は区別されなければなりませんので、「ア」も併せて消去しましょう。 そこで「イ」と「ウ」が残ります。鉄則(5)の「前半・後半」の区別を活用します。
どちらも前半の「心配」と「気になって」は、ほぼ同意とみなしますので勝負は後半です。「ウ」に違和感が持てたでしょうか。ポイントは問題の文章にある「ぐいっと持ち上げるように」です。「ぐいっ」という力の入った言葉が表す内容で選択肢の後半を見比べてみると、「イ=弱気なところは見せられない」と「ウ=気軽に考えていこう」のどちらが相応しいか。結論は明らかに「イ」となります。
確実に問題を正解するためには、与えられた題材から的確なヒントを見つけ出すことが必要になります。選択肢だけに注目するのではなく、問題該当部に隠されたヒントをしっかりつかむようにしましょう。
以上が早稲田中「物語文」での記号選択問題の対策法でした。続いて「説明文」について、「平成17年度・第1回」の第3問を取り上げます。出典は河合隼雄の『日本文化のゆくえ』からによります。
概要は、「江戸時代と現代を比べて、現代日本人の職業観について考える」といった、説明文では典型のテーマのひとつとなります。同氏の文章も頻出で、著書『こころの処方箋』を中心に、これまでも多くの文章が題材とされて来ましたので、今後も注意が必要です。
早稲田中の説明文では、最終問題に「本文の内容と一致(不一致)するものを選ぶ」主旨の問題が、これまで多く出題されて来ました。問題のタイプとしては説明文では頻出ですが、苦手とされる生徒さんが数多くなります。確かに難しい問題ではありますが、対応の仕方では、逆に本文のポイントを絞り込む有益な武器にも変わりうるものです。
つまり、予め最終問題の選択肢を見て、選択肢に共通する語句を見出しておきます。するとそれが文全体の「キーワード」となっている可能性が高くなりますので、本文を読む際にあらかじめポイントを念頭に置くことが出来るのです。
具体的に問題を見てみましょう。
問7:本文の内容と違っているものを次から一つ選びなさい。
- ア・日本人が職場に属するのに対して、東アジアの国々においては血縁を基にする家族が重要視されているため、近代化が比較的早く行えた。
- イ・日本人の就労時間が長いことの原因として、職場の家族的一体感を保つために、なるべく一緒にいることが大切になってくることが挙げられる。
- ウ・現在の日本では、職業選択の自由が保証されていて、多くの子どもが親の職業を継がず、得られる収入の尺度で職業に序列がついてしまっている。
- エ・昔の日本では、人間は生まれながらに身分が決まっていて、職業もそれに従って決ま っていたが、それぞれの人が自分の仕事に誇りを持っていた。
ここで気をつけることが1点、「本文を読む前には、選択肢を熟視しすぎないこと」です。まず時間がかかって大きなロスになります。そして、本文を読む前からいかに選択肢を読み込んでも、正答に行き着くことはありません。あくまでも「重要語句を見つけるだけ」の作業に終わらせて下さい。また、生徒さんが「こんな長くて難しい選択肢を選ぶのか…」と負担を感じられないようにすることが重要です。解くのは後でじっくり取り組み、まずは「重要語句」を見つけることに集中しましょう。
上の4択に共通している語句は、明らかに「日本」と「職業」です。つまりここで本文が、「日本での職業についての考え方」が書いてある、ことが分かります。そんな漠然とした解釈でよいのかと思われるかもしれませんが、それで十分です。少なくともこれから長文という「森」に進むにあたっての「コンパス」は手に入りました。あとは「森の攻略」です。ここからは説明文を解く際の鉄則のひとつである、「線引き」と「マーキング」です。「日本での職業」を念頭に置いて、重要と思われる箇所をピックアップして行きます。「森の中に宝探しに行くとして、宝がありそうな場所にペンキで予め印を着けておいて、後で掘り起こす」ようなものです。
そこで本問へ実際に進みます。
いずれの選択肢も文章が長く、明らかに「前半・後半型」の対策が必要になります。そして言うまでもありませんが、「違っているもの」を選ぶことを忘れないことです。
いざ選択肢を見ますと確かに長い文章ですが、早稲田中の場合はその中に必ず鍵が含まれていることが多くあります。アでは「東アジア」と「血縁」、イでは「就労時間」と「家族的一体感」、ウでは「職業選択の自由」と「序列」、エでは「身分」と「誇り」です。
この鍵になる語句・表現が本文中にはっきりと見つけやすい場所に記されているのです。
アについては形式段落15段落目に「東アジア」「血縁」とも、はっきりと明記されており、段落の最後に「日本が比較的早く近代化を行うことができた」とされていますので、ここですでに「アが×」として結論が出ます。 念のために他の選択肢ですが、イは16段落目にて、ウは10・11段落目、エは8段落目に、それぞれ鍵となる言葉を含む表現がやはりはっきりと示されています。
このように、早稲田中の説明文は、文意の把握の難しさとは別に「文意を問う選択肢は、文章中に鍵となる表現が示されていること」が多くあります。むしろパズル感覚で臨むことが必要とも言えます。
(2)『漢字語句問題について』
早稲田中では、毎年漢字の読み書きで5から6問出題されて来ました。推定配点を1問2点とすれば、60点満点中で10から12点を漢字で占めることになります。その意味でも漢字でより確実に、多く得点することが必須となります。 そこで問題を見てみると、「割く」「期待」「演奏会」といった、問題集ではAランク(最も容易なランク)に属する語もありますが、その数は決して多くなく、むしろ、B・Cランクに属する語が大半を占めます。「念頭」「脳裏」「命名」など、覚えておかなければならないながら、難度の高いものから「不退転」「善後策」といった難解な書き取りも出題されます。漢字について確実に高得点を取るためには、問題集を難問まで幅広く解き進めることが必要となります。
語句の意味も同様で、出題される年度には2問出される中で、「入り組んだ」「賢明な」など容易なものから、「のべつ」「いたずらに」といった難度が高いものや、確実な把握が難しいものまで、出題難度が幅広くなりますので、語句集などでも広く対応することが必要です。語句問題の場合は出題形式が、「選択肢の中から適切なものを選ぶ」かたちですので「問題の語句と入れ替えて本文に入れてみる」といった基本的な方法で対応も出来ますが、他の生徒さんにとっても同じ条件ですし、何より「確実に得点すること」が求められる単元ですので、ぬかりない対策が不可欠です。
以上、今回の内容をまとめますと、
記号選択問題対策では、物語文・説明文ともに共通して「鉄則」に準じて進めること。物語文の選択肢では、細部表現にとらわれず、文章全体の「心情の流れ」を把握する こと。問題そのものに隠されたヒントは、確実に手に入れておくこと。 説明文では、「全体の主旨を問う」問題については、本文を読む前に予め「選択肢を一覧して、本文テーマにつながるキーワードを見つけておくこと。 早稲田中の漢字語句問題は、難度が幅広く出題されるので、問題集などは出来る限り満遍なく演習してくこと。