中学受験と本当の学力
大きな書店の中学受験参考書コーナーをのぞいてみると、何種類もの受験ノウハウ本が出ています。受験は合格しなくては始まらないので、ほとんどが合格するにはどうしたら良いのかを解説しているものです。中には資格試験のように、徹底的に過去問の傾向と対策を研究し、出題される分野に絞って6割の得点を目指し、最小限の努力で合格する方法を力説する本もあります。一方で、中学受験を終えて実際に中学から高校へと進んでみると、同じ入試を経て入ったのに、成績で同級生から相当差をつけられて困っている生徒もいます。
そこで中学受験の合格力と本当の学力に違いがあるのかどうか、それが入学後の学業に影響するのかどうか分析してみましょう。
■中学入試に対する2通りのアプローチ
中学入試において合格するためのアプローチに2通りの方法に分けられます。
- A.合格への最短の道を突っ走る
- B.後々まで役立つ学力を養い、入試合格は一つの成果
Aは中学入試を唯一のゴールと見なす結果重視の考え方です。Bはこの年齢に必要な学力をつけることが入試合格につながるというプロセス重視の考え方ですね。
志望校と受験生の実力に開きがある場合はAのアプローチをとることが多く、実力差が比較的小さければBのアプローチをとるでしょう。
ではそれぞれについてメリットとデメリットを検討することにします。
■結果重視の中学受験
これは、言わば一昔前に話題沸騰した「ドラゴン桜」式中学受験です。メリットは当然最小限の努力で最大限の効果を上げるということ。ドラゴン桜では志望を東京大学理科I類に限定して、合格点を取るための点数配分を考えて、それをクリヤーするための勉強をしていました。中学受験でこれをやれば、あらゆる学校を網羅した塾のテキスト全てに力を注がなくても済むわけで、同じ時間なら学習内容を深められ、同じボリュームなら時間を短くできるでしょう。捨てた部分は学習しないわけですから。
大学入試はそれでも良いのです。大学院へ行かなければ受験はもうそれで終わりですから。後は好きな分野を学ぶわけですし。しかし中学受験で中高一貫校へ入学する場合は、入学後の学習がポイントになります。中学・高校での学習の積み重ねが大事で、「入試に出る分野だけやれば良い」というわけにはいかないのです。入学後に中学受験で重点を置かなかった科目や分野の学習において、中高で苦労することは容易に想像できます。高校進学時に一定の成績が要求される学校もあります。推薦入試を狙う場合には高校での普段の評定がポイントです。
実は大学において入試の科目数が少ない私大で、入学後に受験勉強しなかった科目の基礎力が身についていない学生が多くなり、大学側も困って補習を実施しています。同じことが中学・高校で起こるのです。
■プロセス重視の中学受験
こちらのアプローチのメリットは、中高一貫校に進む小学生として身につけておかなくてはならない基礎力が身につきます。また意識としても「中学入試に合格したらおしまい」ではなくて、入試は一里塚としてその先を見据えることができます。デメリットは学習量が多くなってしまうことです。勉強時間も余計にかかりますし、不得意科目もある程度のところまでは学力を持ち上げなくてはなりません。受験生本人の粘り強さも求められます。親に尻を叩かれながらでは、必要な勉強量は確保できないのです。
■中学受験を通じて一人で勉強する方法を身につける
以上のようにプロセス重視の中学受験の方が、中学へ入学した後も学校の授業に遅れずについて行きやすいことがお分かりいただけるでしょう。私の子ども達やその友人を見ていても同じようなことを感じます。運動部の活動を一生懸命やりながらも成績上位をキープしている子がいるかと思うと、たまにしか部活に顔を出さないのに留年するかも知れない子も。特に男子は低空飛行してしまう割合が高いように思います。
これは、中学受験は親にやらされて勉強していたからです。「受験の時は言うことを聞いて勉強してくれたのに」という声を聞きます。でも思春期を過ぎて親に反抗するようになると、馬を水飲み場まで引っ張っていっても水を飲ますことができない。の例えどおり、本人が自覚しないとどうにもなりません。結局再び頑張ることなく高校進学時に外部へ去って行く生徒があります。
中学受験はゴールではなく一つの過程です。それは運転免許の試験のようなものではないでしょうか。塾や親という教官の助けを借りて教習(勉強)を受けていたのが、免許取得し自分で一般道路を走るのです。誰かにハンドルを握ってもらっていたのでは、路上に出てひとりで運転することはできません。
中学受験を通じて自分で勉強する方法を身につけることも忘れずに、そんな余裕の持てる志望校を一緒に選択しようではありませんか。