あせりとスランプ
来年の受験まで5ヵ月となった6年生は夏期講習で絞られていることだろう。この暑い中、毎日教材がたくさん詰まった重いカバンをしょって塾と家の往復は辛い。しかしこのつらさに耐えることが、夏以降の伸びにつながっていくのだ。
でも、肉体的にも精神的にもハードな夏休みから秋にかけてスランプに陥ってしまう子どもも大勢いる。そうならないために家庭で何をしたらよいのだろうか、あるいは早めに抜け出すためにはどうしたらよいか考えてみたい。
【肉体的疲労を蓄積しない】
「熱くて寝苦しい」「水分ばかり取って食欲が落ちてしまう」などフィジカルな理由が原因で体調を崩し夏風邪を引いてしまう。その結果勉強に力が入らず遅れてしまい、スランプに陥ることがある。塾にいる間、口にする飲み物はお子さん任せにしてはいないだろうか?甘い飲み物ばかり採っていると食欲が落ちる。できるだけ「無糖」の飲みものを持たせる、あるいは買うように指導したい。
昼食や夕食を塾で採ることも多いだろう。コンビニでの買い食いだとどうしても子どもが好きなものに偏りがち。弁当を持たせるか、買ってから持たせることも必要だろう。野菜や果物もビタミン補給に欠かせない。場合によってはサプリメントを飲ませるのもやむを得ない。電車や教室での冷房による冷えを防止するために、長そでのカーディガンやストールのようなものを持たせるようにしたい。これは秋口でも同じだ。
帰宅してから復習もやらせたい気持ちも分かるが、帰宅が遅い場合は睡眠時間の確保を第一に考え、短時間の勉強に留めできるだけ早く床につかせる。小学生はやはり8時間以上は睡眠時間を確保したい。
【精神的なスランプの原因】
以前に子どもの塾の保護者会でこんな話を聞いた。「夏休みに勉強漬けにします。するとこども達は『楽しい夏休みをこれだけ犠牲にしたのだから絶対受かってやる』とやる気になるのです」というのだ。 つまり大きな犠牲を払うことで中学受験の大変さを身に染みるということなのだ。子どもにとって入試の現実感はまだまだない。そこで「俺たちの夏休みを返せ!」という気持ちを受験に向かうようにし向けるわけ。そして夏休みを経てやっとあきらめて勉強への姿勢が変わってくるそうだ。ところが周りがそのように変わっていくのにのんびりしている子どもはまだ多く、スパートが遅い分取り残されてスランプに陥ったように見える。これはどこかでエンジンがかかればまだいい。いずれ取り戻せるから。 しかし、それほどやっていないのに模試の成績が下がりクラス落ちをきっかけに、みるみるやる気を失うケースは要注意だ。塾をやめる、やめないにまで発展することもある。秋口にそんな兆候が見えたら早めに塾や家庭教師の先生に相談すること。早期に手を打てば、取り返しがつかなくなる前に踏みとどまることができるから。
もう一つ問題なのは夏休みに絞られた結果、車のオーバーヒートのようにプッツンしてしまうこと。真面目な子は与えられた課題をあれもこれも全部こなさなくてはと追い詰められる。このタイプの子どもに真面目な親の組み合わせだと、親子共々「毎日やりきれないわ」と深夜まで勉強したりする。前段で述べたように、睡眠時間は絶対に削るべきではないから、肉体的にも疲労が溜まり、秋になったとたん燃え尽き症候群のようになってしまうおそれがある。塾のカリキュラムは標準的な子どもを対象に作られているので、全科目をきちんとこなせる子は少ない。したがって、少々無理だと思ったら遠慮なく塾に相談しよう。「お宅のお子さんの場合は、この科目はプリントの3番までできればいいですよ」などの具体的指示があるはずだ。
【現時点で入試レベルの問題は無理】
6年の夏期講習ともなれば塾の教材にはふんだんに入試レベルの問題が登場しているはずだ。来年の1月にはできても、今の時点ではまだまだ歯が立たない。あるいは時間が不足するのは仕方がない。「大学受験模試で現役生は秋から伸びる」のと同じ。「こんなの難しい」「できっこない」としんどく感じてあきらめる子が早々と出てくるのが現代っ子。結果を急ぎすぎることなく、「今はできなくても当然」と泰然自若に構えていたい。自動車教習所で学科試験の問題が本番より難しいのと同様、塾の問題の方が難しい場合が多いのだ。本番の入試問題で「やさしい!」「できる!」と思えればしめたものだから。
また入試レベルの問題では満点は必要ない。合格点が取れればよい。これからの期間で全教科合計して6割を目指すことになるのだから、お子さんを励まして腐らせないようにしたい。
中学受験は精神的にもまだ幼い小学生が相手なのだから、入試まで山あり谷ありで普通。多くの先輩がくぐり抜けてきた道だ。だから親がゆったりと構えて見せれば、子どもは安心する。親の動揺が子どもの不安につながる。しっかり二人三脚で進んでいこう。