論理的に考える力を伸ばす
【国語力の低下】
学力低下のひとつとして日本語力の低下の話をよく聞きます。難関大学でない場合に、入学してから漢字の読み書きや作文指導をする大学もあるとか。それを裏づけるデータがあります。少し古い調査ですが、2002年国立教育政策研究所の読書実態調査結果によると
教師たちへの質問で、「 国語の力は低下したと思いますか」という問いがありました。
その回答は
とてもそう思う16.1%
そう思う47.4%
で合わせると63.5%もの教師がそう感じていました。
続けて低下したポイントについての質問には
語彙力63%
文章を書く力53%
漢字を書く力48%
文章を読む力48%
聞く力48%
となっています。
重複回答が許されているので合計が100%以上になるのは不思議ではありません。
一方では2002年のゆとりカリキュラム導入以降、全国の小中学校で取り入れられた「朝の読書」で本を読む時間は増えました。そうしたらこれらの能力は上がって来るのでしょうか。
その点について考える前に、中学入試における読解力について検討してみたいと思います。そうすれば必要な読解力を養うことができているかわかるでしょう。
【中学入試に必要な国語力って?】
私が親の目で中学入試問題を見て感じるのは、国語以外の教科の問題文のややこしさです。算数の問題文で厳密さに疑問がわくような出題もありますし(暗黙の了解を前提に書かれている)、構造が複雑で一読しただけでは何を問うているのかわからない問題もあります。
例えば次の算数の問題を読んでみてください。
「花子さん、太郎君、次郎君の3人はおはじきで遊んでいます。花子さんは12個、太郎君は21個持っています。花子さんと太郎君が同じ数だけ次郎君におはじきをあげたので、3人が持っているおはじきの数は2:5:9になりました。始めに次郎君がもっていたおはじきの数は何個ですか?」
いかがですか?一読して解き方が浮かぶ人は、かなり算数になれている人です。はるか昔に小学生をやっていたおとなでは、「ん?なになに、もう一度始めから読まなくちゃ」となるはずです。
おはじきの数は出ているけれど、これはやりとりする前の数。3人が持っているおはじきの数の比はやりとりした後のもの。たずねられているのはやりとりする前の次郎君が持っていたおはじきの数。
ここでやりとりする前と後で不変なものを見つけようとすれば、正解にたどり着けます。
(答えは後ほど)
このような文章を読んで構造を理解する力が「朝の読書」で身につくでしょうか。私ごとで恐縮ですが、息子や娘は読書好きで小学生時代週に何冊も本を読んでいました。でも数学の文章題が得意だったかというと違ったようでした。
それは物語と論理的な文章との違いによるものではないかと思います。日本のセンター試験に当たる問題を韓国のものを見たことがありますが、かなり実務的・論理的な文章が取り入れられていました。
わが国の国語教育では物語の心情理解に重点がおかれていて、論説文などの文章に触れる機会が少ないと思います。また社会でも哲学書など実際に読んだりしないでしょう。
一方で中学入試には、先のような算数の問題は序の口でもっとややこしい問題が出されます。また国語にも科学的な文章が出題されます。また理科や社会は単なる知識問題ではなく、その知識を用いて実験の結果から法則を読み取ったり、原因や結果について考え自分の言葉で述べなくてはなりません。
どこかでこのギャップを埋めなくては子どもが苦労します。親としてどんな手助けができるでしょうか。
【論理的に考える力を伸ばすには】
○プロセスを重視する
「答えは?」「当たったー!」なんてやってませんか。ありがちですよね。きちんと考えて解いた結果は「当たり外れ」ではないはず。解法をパターンで覚えてはいても、理解していないときに表れる態度です。理解度をもう一度確かめた方が良いかも知れません。逆にプロセスがあっていれば、最後のところで間違っても心配はいらないでしょう。
○複雑なものは単純なものへと分解する
算理で応用問題に苦労しているときに問題をみて下さい。たいていは基本問題を組み合わせて複雑にしています。問題文を分解して段階的に考えれば、実は十分解けるはずの問題のことが多いのです。
○図や表を用いて可視化する
算理、場合によっては国社でも図解すると分かりやすくなります。算数の線分図や面積図はもちろんのこと、国語でも登場人物の関係や修飾語のかかり受けなど図解可能なものがあるでしょう。描くのに時間がかからない単純な図解がすぐできるようにするといいでしょう。
○なぜを3回繰り返す
トヨタで改善活動を行う際に「なぜ?」を3回繰り返せというのがあるそうです。3度繰り返す内に真の原因や、目的にたどりつけるからです。理社で単に知識を覚えるだけでなく、なぜという理由を知っていれば答えを忘れても導くことができるかも知れませんし、記述式の問題にも強くなります。
○親子で話し合う
テレビのニュースなどについて親子で話し合ってはいかがでしょう。大人の考え方を知る機会になります。また子どもの考えを聞いてやることで表現力が身につきます。ただし「そんなわけないだろう」などと否定しないで下さい。
例えば
親「農林水産大臣の事務所費の内で光熱費が高すぎるってニュースで言ってるけど、何がいけないんだと思う?」
子「高すぎるから?」
親「そうか、家の光熱費っていくらぐらいだと思う?」
子「わかんない」
親「だいたいでいいよ」「1万円ぐらい?」「惜しい、平均すると2万円弱かな。農水大臣の光熱費は1年で500万円て言ってるから月にすると?」
子「40万円くらいかな」
親「そうだね。家と比べると?」
子「すごく高いね」
親「高いから問題なのかな?」…
といくらでも続けられますね。
自分では気づかない視点を示唆するなどして、視野を広げてやるといいでしょう。
○論理パズル
好き嫌いがありますが論理パズルの本が色々出ています。あるいは数独やナンバープレイスも良いと思います。任天堂DSやソニーPSP用もあります。
難関校の入試問題は分析して推理して考えをまとめ表現するタイプの問題が増えています。そして難関校での出題が続くとそれがだんだん広まっていくそうです。今後ますます論理的に考える力が必要になります。こども達の考える力を伸ばしていってやろうではありませんか。
【問題の解答】
花子と太郎が持っているおはじきの差9個は、次郎におはじきを与えても変わらない。やりとり後の花子と太郎の比の差は3、これがおはじき9個にあたるから、比の1はおはじき3個。花子は今3個×2=6個持っている。最初12個だったから6個あげた。次郎は今3個×9=27個。2人から6個ずつ、つまり12個もらったのだから、27−12=15個始めに持っていた。