ーAll About受験ガイド高橋公英さんー
わが子を合格に導くヒントとテクニック

中学受験・親の役割(3)

 以前にも二度、親の役割について書きました。最初は「親は中学受験のコーディネーターたれ」ということ、次は「家庭で勉強を見る際の注意点」でした。第三回として、「親が子どもに伝えるべきもの」について考えてみたいと思います。

 学習の詳細内容やテクニックは塾や家庭教師の専門家に任せるとして、親でなければできないことは何でしょうか。それはものごとの「本質とは何か」「仕組みはどうなっているか」を教えることだと思います。

【3つのJ】

本質について語ると言っても、「日本の政治は自民党が長い間与党にあって〜」と抽象的なことを話すことではありません。日常で出会う個別具体的な事象について、理解できるように手助けしてやることです。
例えば、私が子どもの頃に新しい自転車を買ってもらいました。すると父は何をしたかというと、ヒモを綿の古布で編んで自転車のハブの中心にリング上にかけたのです。その理由をたずねると「そこに油を差せばずっと錆びることがないから」と教えてくれました。
私はそこで父から金属は錆びること、常時油の膜を作って空気を遮断することで錆びを防げることを教えられたのです。子供にものごとを教える際には、できるだけ具体的な方が効果的です。印象が強く残り、いつまでも忘れることがありません。頭でわかるというよりも身体的な記憶となると言ってもいいでしょう。

自動車や家電製品の品質向上に「3現主義」という言葉が使われるのをご存知でしょうか。それは「現地(現場)、現物、現実」の三つの「現」です。
何かを変える時には

  • 1.現地(現場)へ行く。
  • 2.現物を見る。
  • 3.現実(=データ、結果)を重視する。

ことが間違いを防ぐ方法だということです。
とかく現代人は机上で「こうすれば大丈夫だろう」と考えたり、「多分〜じゃないか」などと推測で行動していまいがちなのを戒める言葉です。
同じように子供を相手にするときには「実物、実際、実地」の三つの"J"が大切だと思います。

  • 1.実物を使う。
  • 2.実際にやってみせる。
  • 3.実地にやらせる。

ということでしょうか。これを各教科に当てはめてみます。

【教科毎の3J】

■ 国語
国語という教科は物語の読解が中心となります。登場人物の心情を理解するには、豊かな感情を持っていなくてはなりません。日常生活での喜怒哀楽の幅が広いほど、他人の心を推し量る力が育ちます。国語という教科を超えて、役に立つ力です。
最近感じるのは、今の子どもは冷めているということです。本気になって何かに取り組む機会が少ないからでしょうか。シャンプーのCMで親が本気になって遊んでいるところを見せるというのがありますが、今一番必要なのはそれではないでしょうか。

算数
中学入試の応用問題になると、問題文の読み取りが重要になります。問題の意味の理解が8割で残り2割が計算という感覚です。問題の意味を把握するにはイメージする力が物を言います。そのためには、例えば自分で買い物をして、レジ清算前に消費税を計算してみるとか、立体を展開図から作ってみるとか、2次元の紙に書かれた世界を現実の世界で体感することが役に立ちます。
生活の中でのお手伝いも算数に活かせます。子どもにケーキを何等分かさせてみたり、料理の材料を量らせてみる(重さや、容量)などです。

理科
授業時間の削減であおりを受けた、実験が有効です。水溶液の性質などは、実際に臭いをかぎ、指示薬の色を見て、金属が溶けたり、ガスが燃えたりを体験すると、単なる知識問題がリアルな感覚で理解できます。科学館や博物館で様々な現象の原理を目にすることも大いに役に立ちます。望遠鏡で月を眺めるだけで、天体が身近に感じられることでしょう。
こちらも日常生活で教えることはたくさんあります。のし餅を切るときには、包丁に大根をこすりつけて切ると、くっつかずに切れやすい(でんぷん分解酵素の働き)ことや、水道水が乾いたときにできる白い染みはカルシウム分で、お酢で溶けることなど、気づいたときに話してやり、できれば実際にやって見せます。

社会
地理感覚を磨くには地図と現実の対応でしょう。旅行に地図帳を持って行き、自分がいる位置を地図帳で確認しながら移動します。カーナビは勝手に表示してしまうので、受け身になってしまいます。またニュースなどで地名が出たら、地図帳で確認します。
歴史は旅先で歴史的な建物や場所を訪れて、出来事と場所を自分で結びつけるといいでしょう。大河ドラマなども有効です。何年か続けてみていると、同じ出来事が違う視点で描かれていたりして、複眼的な見方を持つ助けにもなります。

【知識を手元に引き寄せる】

中学受験の3Jとは、要するに子どもにとって自分とは切り離されていた知識を、手元に引き寄せて現実感あるものにするということだと思います。身体感覚で語れるようになれば、記述問題でも対応することができるようになります。
今はパソコンを用いたインタラクティブな教材もあるので、大いに利用したいものです。

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