2020年問題と東大入試
2020年問題はご承知でしょうか。大学入試改革によって現センター試験に替わる新しい試験が導入されるのが2020年なので、そこで起きる大きな変化をこのように呼んでいます。少し前に「2020年大学入試改革と中学入試への影響」という記事を書きましたので、そちらも御覧ください。
2016年の東京大学入学試験の英語で1枚の写真を示して、それについてあなたの思うことを述べよという問題が出ました。その写真というのは猫を題材にして錯視を利用した構図の写真なのですが、あまりに漠然としていてつかみどころのない問題ですね。また、同じ年に順天堂大学医学部の一般小論文問題で、「キングス・クロス駅の写真です。あなたの感じるところを800字以内で述べなさい」という課題も出題されています。
ズバリの正解はないにしても、素材である写真を全く無視した解答ではいけません。写真に写されている要素を分析してテーマを決め、どのような論述を展開するか、試験のその場で判断して制限時間内に書かなくてはなりません。知的な瞬発力が求められますが、口から出まかせにならないためには、普段から様々なことに疑問を持ち考える習慣を持っていないと対応できません。
こうした問題は2020年の大学入試改革の先触れとも言えます。大量の知識を駆使して短時間で処理する頭の回転の速さを競うという、従来の入学試験で測る学力とは別の能力を持つ学生を選びたいという大学側のアドミッションポリシーの表れでしょう。当然この流れは中学入試にも影響が出てきます。
国語算数理科社会という4教科入試の他に、思考力入試を実施する学校が2017年度入試から急増することがわかっています。もしかしたら思考力入試元年とも言うべき出来事になるかもしれません。東大入試で起きたことは、いずれ中学入試に取り入れられます。1枚の写真について何かを述べさせる課題はこれから中学入試問題でもよく見られるようになるのではないでしょうか。
また、すでに高校大学入試で頻出され、さらに公立中高一貫校の適性検査で用いられている小論文も多くの私立中学校の入試で出題されることも考えられます。「七転び八起きということわざについて、あなたの経験をもとに600字で書きなさい」のようにテーマのある作文です。あるいは課題となる引用文を読んで、「あなたは筆者の主張についてどう考えますか」のような形式もあるでしょう。
このような、小論文形式の問題は学力だけでなく、受験生がどんな人となりなのかを見るという目的があるはずです。長期的な視点ではこれからの時代を背負っていける人間なのか、短期的には2020年大学入試に対応できる人材なのかということ。
私も小論文の指導をすることがあるのですが、書き慣れていない生徒にはいきなり作文をさせるのではなく、そのテーマ例えば「資源のリサイクル」について、どう思うのかを口頭で述べさせます。その際に、まずは一番言いたいことは何なのか、それはなぜなのか、つまり中心文と意見・理由をセットで考えさせます。さらに、予想される反論も想定します。
このように一つ一つのテーマについて考える訓練をしないと、小論文は書けません。常に世の中の動きに関心を持ち、考える習慣を身につけることが小論文を苦手としない早道だからです。何かについて考えて、それをアウトプットする習慣が大事です。2020年問題への対処法のひとつがこれではないでしょうか。お子さんとニュースについて対話することもその助けになるので、ぜひご家庭でも実践していただけたらと思います。
今回ご紹介した一枚の写真問題とは異なる適性検査型問題が、いくつかの私立中学校入試でも出題されてきていますので、知識やパターン学習で解けない問題は増える一方でしょう。正解が一つに定まらない問題に答えを出せる新しいタイプの学力をどうやって磨くかを考える必要があります。「考える力」は習慣によって養われますので、気になったことについてとりあえず考えてみるように子どもを導いてやりたいものです。