大学入試改革と私立中学校選び
さて今回は、平成26年の12月に中央教育審議会から答申された大学入試改革と、それに基づき2020年度には実施されるであろう、大学入試センター試験に替わる新テストの導入が中学入試にどのように影響するかを考えてみます。現在の学習指導要領では、子どもにつけさせる学力に3つの柱を掲げています。それは「基礎的な知識と技能」「それを活用するための思考力・判断力・表現力」「主体的に取り組む学習態度」です。
ところが大学入試での志願者の学力選抜では、この3つの柱が正しく評価されず、知識中心のテストによって1点刻みで争われているのは問題だと中教審は言っています。そのために大学入試を改革するというわけです。
具体的にはどうなるかご存じですか?答申には次のように書かれています。
- 各大学のアドミッション・ポリシーを明確化する。
- 大学入試センター試験を廃止し「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」を導入する。
- 大学が行う個別選抜テスト(従来の2次試験)は、3つの柱を踏まえた多面的なものとする。
- 多面的な選抜方法とは、小論文・面接・集団討論・プレゼンテーション・調査書・活動報告書・大学入学希望理由書・学修計画書・資格試験・検定試験・各種大会等での活動や顕彰の記録等の活用。
センター試験に替わる新テストはどのようなものになるのでしょうか。教科型に加えて総合型の問題を組み合わせ、将来は教科型はなくす。知識だけでなく「思考力・判断力・表現力」を総合的に評価する。解答方式には記述式も取り入れる。英語では、「読む・聞く・話す・書く」の4技能を総合的に評価する。 幅広い大学で利用できるように、難易度は幅広く設定する。
実はこれに加えて高校卒業時の学力を認定する『高等学校基礎学力テスト』も導入されます。両者を受験しても良いし、大学進学希望者はそちらの試験だけでもかまいません。
■スケジュール
具体的なスケジュールは次のようになっています。
- 2017〜18年度 高等学校基礎学力テスト プレテスト実施
- 2019年度 高等学校基礎学力テスト実施
- 2017〜19年度 大学入学希望者学力評価テスト プレテスト実施
- 2020年度 大学入学希望者学力評価テスト実施、それに基づく大学の入学希望者選抜実施
2020年度といえば、今年の中学入学者が大学入学希望者学力評価テストの最初の対象者になるわけです。これから受験する皆さんのお子さんも新テストの対象者となります。
公立中学校や高等学校で、3つの柱による確かな学力づくりが進んでいると中教審は考えているようですが、高校の学習指導要領は新テスト導入前に改定されることになっています。より、確かな学力に沿ったものに変えるということなのでしょう。
さて、1点刻みのセンターテストでは、難関私立中高一貫校の生徒は高い点数を取っていたが、新テストではそうはいかず、私学の一人勝ちの状況が変化すると考える向きもあるようですが、本当にそうでしょうか。
総合型の問題というのは、OECDが実施しているPISAテストや文部科学省が実施している全国学力調査の問題に近いものです。公立中高一貫校はすでにそのような問題を出しています。さらに、私立中学は入試問題を独自に作っているので、それをいち早く総合型を取り入れることもできます。またカリキュラムも独自性が認められているので、その中で新テストに対応したものに変えていくことも可能です。それに加えて、こうした改革が明らかになる前から、表現力を養う授業や討論する授業を取り入れているところもあります。
公立学校では、一部の研究校で新しい授業やカリキュラムをテストしてから、全国で実施するという手順を取らざるを得ません。ということは、私学の方が小回りが効き、いち早く大学入試改革に対応できる可能性が高いでしょう。結果的には、私立中高一貫校の方が新テストには有利なのではないかと思います。こうした状況をいち早く察知した保護者が、来年度以降の中学入試でどう動いてくるのか、それによって大きな影響が出るに違いありません。私学側も変化にいち早く対応できたところが多数の志願者を集めることになるでしょう。
また、各大学のアドミッション・ポリシーの策定を受けて、私立中高一貫校も明確なアドミッション・ポリシーを打ち出してくると考えられます。志望大学と近いアドミッション・ポリシーの中高一貫校を選ぶという志望校選択が一般的になるのかも知れません。大学入試なんてまだ先ではなくて、今年の中学受験生からその対象者であるという認識を持ち、これに関する情報を収集する必要があります。