受験生と塾と保護者の関係
夏休みもまもなく終わりです。来年度入試の受験生である6年生は、おそらく受験勉強一色の夏だったのではないかと思います。お世話になっている知り合いの方のお子さんが、その受験生の一人です。
夏休みの日課表を見せてもらいました。朝は5時台に起きて早朝の勉強、朝食後入浴して、再び家庭学習。午後は塾の夏期講習でじっくり勉強。帰宅後夕食を食べるとすぐに就寝時間。早起きするために入浴を翌日に回し、深夜の勉強はしないようにしているとのこと。
また内部生に必修の夏期講習の他に、特別な講習がある日は午前中から塾へ行きます。このようなハードな毎日を過ごしたので、途中で体調を崩して熱を出し、1週間休んでしまったそうです。
今の中学受験生にとって塾は欠かせないものとなって来ています。この夏期講習を参考にして、塾・受験生・保護者それぞれの立場から、どのような目論見や思惑のすれ違いがあるのかを考えて見たいと思います。
■塾の進め方
カリキュラムを見ると、これまで学習した内容を次々と夏休み中に復習するサイクルとなっています。1つの単元が1日で過ぎることもあり、苦手な分野もあっという間に通りすぎてしまいます。それでは学力の底上げは難しいと感じました。また既習の内容だから解説は少なく演習を多めにとるようにしているはず。演習をしながらわからなければすぐに質問できる塾ならよいのですが、大手進学塾では質問は授業が終わってからが普通です。
ところで進学塾は、まずはトップレベルの受験生に必要な学習を網羅するカリキュラムを組み、受験生の学力に応じて授業で使う問題のレベルをコントロールするという形が一般的です。その塾の生徒はどの教室でも同じ日に同じ分野を学習するという点では違いがないのです。ただし扱う問題の難易度が異なるというわけです。
個別指導塾でなければ、ある意味当然の運営方法です。しかし受験生の方は千差万別なので、必ずしも最適化された指導体制ではないということを意識する必要があります。
もう一つ忘れてならないのは、夏期講習というのは塾にとって稼ぎ時だということ。できるだけたくさんのオプション講座を取らせて客単価を上げたいという営業の意図という側面があるものだからです。
■受験生の事情
夏期講習において復習のサイクルが回るので、苦手分野の洗い出しはできますが、その手当をする時間が取れないのです。得意分野の学習時間を不得意分野に当てられれば良いと思うのですが、それは受験生側が相当意識して、「この日は塾を休む」と決めないとできません。
さらに一日に複数の教科の授業が組まれていると、算数では得意分野の学習なのに社会では苦手分野の日で、やっぱり休めないということになります。また算数ではトップのクラスで大丈夫なのに、国語はそのクラスでは難しすぎてついていけないというケースもあります。集団指導の塾に行っていると、どうしてもこのような効率の悪さが出てきます。
もう一つ言えることがあります。塾の組分けで所属している組が上位のクラスなら、夏期講習の課題にも入試問題がどんどん取り入れられています。ところが、そうしたクラスでないと、入試問題レベルの課題に取り組むことが少ないので、受験生が入試問題を体感することもなかなかできないようです。入学試験と現在の実力のギャップを知ることが、勉強に力を入れるキッカケとなることがあるので、一度は入試レベルを体感しておきたいと感じます。「鉄人の一通入魂」の「6年後半から飛躍的に伸びた生徒に見る合格を引き寄せる8つの法則」という記事にもありますように、早めに過去問に触れると受験に対する目的意識が生まれます。
通常の夏期講習の他にオプション講座まで受講したら、いったいいつ予習復習したらよいのだというのが、受験生の本音ではないかと思います。
■保護者の事情
学校がある間子ども達は、授業に時間を費やしています。中学受験をするような生徒は、大概学校の勉強は苦もなくこなすことができるので、保護者の目からは授業時間が無駄に思えるでしょう。その授業がない夏休みを最大限に生かして欲しいとの思いが、オプション講座の受講につながっていきます。スケジュールがびっしり埋まっていると安心してしまうような気持ちがあるでしょう。
家にいるよりも塾に行っていれば勉強できるのではないかという幻想もあります。子どもはやりたくなければいくらでもボーっとすることができるのですけれど。
多くはとにかく塾にお任せして、あとは講習中のテストを見て一喜一憂してしまうことになりがち。それによりさらに受験生を追い込むようになることがあります。すると最初の生徒のように体調を壊して、講習を休んでしまうことにもなりかねない。それでは本末転倒ではないでしょうか。
■どうしたら良いか?
あくまでも限られた時間を有効に活用して、得意分野を伸ばし、不得意分野を底上げして、志望校に合格できる学力を身につけることが中学受験勉強の目的です。そのためには、ある程度の取捨選択は家庭で行う必要があります。最大限のトレーニングメニューが塾のカリキュラムだと思って、その中からわが子に必要な物とそうでないものを見分ける。
夏期講習はもうすぐ終わってしまいますが、秋以降は学校別講座なども開かれるでしょう。模擬テストの回数も増えて、あっという間に年末を迎えてしまいます。気をつけていないと夏期講習と同様に、塾のスケジュールに流されてしまいがち。何が必要で何が必要でないかをよく吟味したいものです。
幸い中学受験鉄人会のホームページには、塾別の学習方法のアドバイス記事などが豊富に掲載されています。ご自分のお子さんが通う塾のタイプに合わせて、効率的に学習するための参考にされると良いと思います。