ブームが去って精鋭が競う中学入試へ
■大震災の影響で内向きになる社会
東北地方太平洋沖地震が発生して日本中が落ち着かない状況です。被災された方々および関係者の方にお見舞い申し上げます。
また、福島第1原発の事故もまだ収まっておらず、どのような影響が出るのか予断を許しません。こうした世相では人々が新しいことをしようとする意欲が減退して、内向きに縮こまるという傾向が見られます。今回の大震災は1000年に1度の大災害なので、相当に保守的になるでしょう。
■中学入試への影響は?
中学入試への影響を考えると、周りが行くから自分もというような付和雷同型の受験は影を潜め、わが子の将来を考えて、こんな時代にあえて中学受験を選ぶご家庭のお子さんが競う、少数精鋭の激戦になることが予想されます。しっかりした準備をして入試に備えてくるでしょう。
この春、小学校に入学するお子さんをお持ちの保護者向けの講演会を4回行いました。私立小学校への入学者も公立小学校への入学者も、そうしたセミナーへ参加される方は教育熱心な方ばかりです。小学校に入ったら学校任せで大丈夫なのだろうか?何かしておかなくてはいけないのでは?と考えて、進研ゼミや公文などを与えているご家庭も多く見られます。それが最良の方法というわけではなくて、他にないからという消去法での選択に見えます。
でも共通しているのは、みなさんわが子に良い教育を与えたいという思いです。こうした不確実で不安な時代だからこそ、しっかりした教育環境を整えてやって21世紀を生き抜く人になって欲しいという意識の高さが現れています。
■目標は大学とその先の社会人
有名私大附属校を目指しているか、大学入試での難関大学受験を目指しているか違いはあるものの、小学校入学の時点で先を見据え準備を始めているわけです。21世紀の社会人として必要な素養は何かなどに関心をもつ人が多く見られます。
となると公立不信はあるものの、学習指導要領が改訂され公立高校の進学校化も進んでおり、私立中学ならどこでも良いという訳ではありません。有名な学校や高い進学実績を出している学校に人気が集中します。そうでない学校は生徒集めに苦労するでしょう。2極化はリーマンショック後の不況下で進んできましたが、さらに顕著になるかも知れません。
また単に大学合格実績だけではダメだと、少しずつ気づく人が増えているように感じます。筆者の子どもには東大生(OBと新人)がいます。彼らの話を聞くと進学指導を前面に打ち出している高校の出身者の中には、とても頭がよいが、プライドが高かったり、思いやりに欠ける学生が多いように感じます。
東大生でも就活で内定をもらえない学生がいるのですが、話しを聞くと自分が採用担当者でも落とすだろうなというようなエピソードの持ち主です。
ですから高校での生活が受験勉強に染まってしまうのか、人間の幅を広げつつ受験に取り組むのかに注意した方が良いかも知れません。
受験勉強をして中学入学したのに、1年生で大学進学のために塾に行き始める。まるで受験勉強中毒です。確かに国立医学部を目指したり、法学部から司法試験を目指したりするには、大学内でもトップレベルの争いになるため相当の覚悟が必要です。
けれども人間力を高める機会を、受験勉強一色に染めてしまうことには賛成できません。
■これからの時代に活躍する人とは
原子力発電所の事故という前代未聞のトラブル解決に当たれる人とはどんな人でしょうか。マニュアル人間ではダメなのは言うまでもありません。こうした非常時には従来の枠にとらわれない大胆な発想力が必要です。秀才タイプの人は前例と違うことをするのが苦手です。
危機に際して能力を発揮するのは、ひとつは天才肌タイプ、もうひとつは秀才ではない変人タイプ。 私がメーカーで生産技術の職場に配属された時の上司が後者のタイプでした。アイディアマンで色々なことを思いついては「おい、これやってみろ」と振り回されました。
ある時ビデオカメラの自動調整ラインの開発がスタート。普通は測定器を組み合わせて製品の電圧などを測定しながらロボットがボリュームを回して自動調整します。測定器というものは業務用の装置のため高価です。生産能力を挙げようとすると、測定器をたくさん用意しなくてはなりません。そうすると製造装置の予算を大幅にオーバーしてしまいます。
そこで、その上司はこう言いました。「別に測定器じゃなくてもいいじゃないか。科学の実験じゃないんだから」その一言で突破口が開けました。測定器を使って設計者がきちんと調整した「神様製品」を用意します。測定器のように読みは正確ではないけれど、読み取り数値の変動が少ない機器を新しく安く開発します。「神様製品」をその装置にかけて読み取った数値と同じになるように、組み立てた製品を調整していくようにしました。こうして予算内で新しい生産ラインを作ることができたのです。
もし常識を捨てられなければ、そのミッションは達成できずに予算を積みましていたことでしょう。こうした柔軟性は勉強以外の活動でしか養われないと思うのです。
■大学合格力+アルファの受験
学校が進路指導をきっちりしなくても進学実績をしっかり出している高校があります。こうした学校は生徒のモチベーションが高いため、周囲から感化されてひとりでにモチベーションが上がります。そんな中で大学の教養学部のような授業をする先生がいたり、ゼミ形式の授業が行われたり、特色のある学校があります。
これからの時代はこうした大学合格力+アルファの魅力を備えた学校が生徒を集めるのではないでしょうか。人間力がモノを言う世の中では、勉強以外の場で人間力を磨かなくてはなりません。偏差値で志望校を選ぶことが、あまり意味が無くなってくるような気がしています。過去問を研究して、しっかり対策する大学受験のような受験勉強が有効になるのではと思うのです。
思えば東西冷戦終結以降、世界史の教科書にのるような出来事が頻発する世の中になりました。これからの社会を担う力のある子どもを育てるようにしたいものです。そのためには私たち大人が目の前の日常生活にあくせくしていないで、将来に目を向けて子どもの道案内をしてやらなくてはなりません。