骨となり肉となる学力とすぐにはげ落ちる学力
最近仕事で低学年の小学生や就学前の幼児と接する機会が多くなっています。特に低学年の子どもたちは国語と算数の勉強をする様子を間近に見ています。
一方で我が子も含め、中高一貫校に進学した子どもたちのその後の消息を見聞きすることも多くあります。両方の経験から小学生時代に身につけた学力で、後々まで残っているものと、中学入試が済んだらメッキがはげるように落ちてしまうものとがあることに気がつきました。
■原理を理解していない解き方は身に付かない
先日ある保護者から「最近は濃度の問題を解くのに、天秤(てんびん)を使うんですね〜。私たちが子どもの頃にはなかったです」と言われました。
算数の濃度天秤という解法の話ですね。濃度の違う液を混ぜてできる濃度を考えたり、混ぜる液の重さを導いたりする方法です。これを知っていると算数の濃度計算では大変便利なのですが、成績上位の生徒でもこの方法でどうして解けるのか、本当に理解している生徒は少ないのではないでしょうか。
濃度の問題→濃度天秤というパターンで解き始めるから解けるわけです。入試が終わってパターンに当てはまる問題を解かなくなると、こうした知識は急速に失われていきます。
もし、濃度天秤の考え方が濃度の異なる溶液間の溶けている物(大概は塩)のやりとり、つまり「濃い=塩分が多い」方から「薄い=塩分が少ない」方へ移してならすという考え方と比例配分を理解していれば、濃度天秤でなくても(例えば面積図)解くことができるでしょう。
■計算が早ければいいとは限らない
今の低学年の子どもの多くは、公文や100ます計算など何らかの計算練習をしています。学校で計算プリントの時間を測ったり、宿題に時間を記入させるところも多く見られます。こうした子どもでは確かに計算問題は早くできるのですが、文章題をやらせてみると困ったことが起きてきます。問題文中にある数字を足したり引いたりするだけなら、瞬時に答えを出してくれます。
ところが、隠された数を自分で導いてから計算する問題になると、隠された数に気づかずに問題にある数字の操作で満足してしまうことがあります。問題を見てさっと計算する習慣ができているので、立ち止まって考えないのです。
例えば次のような問題です。
『図書室で貸し出す本を数えています。きょうは昨日より5冊多く貸し出しました。昨日の貸出は6冊でした。明日もまたきょうと同じだけ貸出が増えるとすると、何冊になるでしょうか?』
- きょう=きのう(6冊)+5冊
- あした=きょう+5冊=きのう(6冊)+5冊+5冊
これが正解ですが、問題文には明日の増える数が直接数字で書かれていないので、見落としてしまい11冊と答える子どもが多いのです。
■発達段階に応じた理解が大事
中学受験勉強の開始が新小3まで低年齢化してきています。けれども小3の段階では先取り学習はあまりお勧めしません。
ジュニア予習シリーズの教材を見ても、学校で習う内容よりかなり難度の高い問題が含まれています。塾に通っている子どもたちはそのレベルの教材をやっているのでしょう。確かに3年生ともなるとかなりしっかりしてきます。だからこそ自分の理解出来る範囲の問題を考えて解く習慣をつけたいのです。それが後々にパターンの詰め込み学習を防ぐことにつながると思うからです。計算力についても、ある程度の練習は構いませんが、スピード重視の練習は文字が汚くなるという副作用もあるので、一定のレベルに達したらそれ以上の練習は不要だと思います。
また国語の漢字や語句などの知識ですが、先取り学習しても漢字の意味やニュアンスが理解出来ないと役に立ちません。私も低学年用の熟語教材を作ろうと試みましたが、子どもに語彙力がないと理解できないので、あきらめました。地道に日常会話や読書で語彙を増やすように心がけた方がいいでしょう。特に今の子どもは慣用句の使い方に弱いので、ご家庭で積極的に慣用句を使うといいですね。
『考えるのは習慣』と教育評論家のはやし浩司氏も言っています。「わからない〜」と諦めるのではなく、ねばり強く考える習慣を付けることこそ中学、高校、大学へとつながる学力の基礎となるはずです。