志望校選択、偏差値や
大学進学実績がすべてではない。
今年も本格的な中学入試の模試のシーズンがやってきました。入試問題への取り組み方については、「プロ家庭教師からの必勝アドバイス」に詳しく書かれているので、私は多くの保護者が頭を悩ませる『志望校選び』について考えてみます。
■ 学ぶと言うことは時間的プロセス
中高一貫校に入学して学校生活を送っていると、入学前にはわからなかった様々なことが見えてきます。考えてみれば教育とはそういうものなのです。教育を受ける前はその内容が理解できないために、教育を受けたあとの自分を想像することができず、事前評価が難しいものです。教育の本質について、神戸女学院大学の内田 樹先生が著書で、次のようなことを書いています。
「学びとは、学んでいる当人には
その価値や自分にもたらす影響が言えないもの」
人は学ぶことで自分の変化を通して、それについて知るということです。そのプロセスそのものが学びなのです。そこにはプロセスつまり時間と言う要素が必ず含まれます。ところで偏差値や大学進学実績はこのプロセスの結果を瞬間で切り取ったもので、時間的要素が含まれていません。なぜならその実績を作ったのは6年前に入学した生徒であり、これから中学入試に挑む子ども達ではないからです。6年後に同じ数値である保証はありません。
ですから学校をパソコンを買うようにスペック(性能などのカタログ数値)を比較して、決めるということはすべきではないのです。偏差値や大学進学実績は、中高一貫校を選択する際のひとつの面から光を当てているのだということをお忘れなく。
■ 中学や高校は環境そのもの
小学生までは学校にいる時間が長いとは言え、親の強い影響下にあります。しかし中学に入ると同年代の仲間達の中で過ごす機会が圧倒的に多くなり、親の影響下から遠ざかります。おそらくこれは大型の哺乳類に遺伝的に植え付けられた行動なのでしょう。成長するにしたがって同時期に誕生した仲間と遊びを通して、狩を学んだり、コミュニティのルールを学んだりします。
したがってこの年頃の子どもにとって学校は、数値で表せない日常の環境としての側面の方が大きく重要だと、わが子を見て実感します。学校がどういうコミュニティなのかということの方が、数値化できるものより大きく感じるのが入学後なのです。
■ 友達作りができるかどうかがポイント
私学の先生がすべて素晴らしい先生ばかりかというと、そうでもないようです。ある先生の時には教室中で内職しているという話も聞きます。入れ替わりが少ない分だけ、色々な先生がいらっしゃるのでしょう。一番大切なのはやはり生徒なのです。わが子が友達をつくれるかどうか、少数でも良いから気の合う友達が見つけられることがポイントです。息子の学校は他ではオタクと敬遠されそうな生徒も、同じような仲間を見つけることができます。一方でスポーツに打ち込む生徒もいます。みなが同じ方向を向いていなくてもいいのです。自分の居場所が作れれば。
けれども問題があります。入学前に生徒同士が関わる生の姿を見る機会があまりないことです。しかも中学から高校まで6年間もあります。中学と高校ではかなり様子が変わる学校も少なくありません。 ですから文化祭や体育祭などの生徒が主役の行事に参加して、生徒の雰囲気をつかむことは大切です。またよく言われるように登下校の様子を見ることも一つの手段です。
■ 学校の姿勢も見逃せない
もう一つは学校の姿勢です。進学実績が優れていても学校が特別な受験対策をしていない学校も多いものです。こうした学校での結果は進学指向の強い生徒が集まるから出ているのであって、受験指導を学校に期待すると間違ってしまいます。反対にはっきりと「勉強が一番」と言い切る学校は、勉強以外の活動に打ち込もうとすると何かと制限が多く、思ったように部活ができないかもしれません。
学校の姿勢は公式の説明会で語られることが多いのですが、中には本音と建前を使い分けているケースもありますので、在校生や直近の卒業生の声を聞くことができると良いでしょう。知り合いがいなければ卒業生の話を聞くことが多い、塾の先生にたずねれば教えてもらえるはずです。塾の保護者会や面談で志望校が実際のところはどうなのか、知りたいポイントをはっきり伝えて確認してみましょう。
■ 最終的には自分の感覚で選ぶ
何度か学校に足を運んでいると、実は校風と言うものをご自分でも感じ取ることができるはずです。けれども偏差値や大学進学実績に影響されて、本当は見えているのに目が曇って見えなくなるのではないかと思います。説明会やオープンスクールで五感をフルに働かせて、本当にわが子に合う学校なのかどうか感じ取って頂きたいと願います。