ーAll About受験ガイド高橋公英さんー
わが子を合格に導くヒントとテクニック

「考える力」が中学受験で試される理由(前編)

 年々中学受験をする生徒が増えて競争が激しくなっています。するとどうしても目の前の受験にばかり気がとられて、子どもの将来を見通せなくなって来ています。一年の始まりはちょうどよい機会です。もう一度広い視野で世の中を見てみましょう。今回は働く人の視点で考えます。

【中学入試問題の傾向が変わる】

 学力低下が叫ばれ「ゆとり教育」の見直しが行われています。そもそも「ゆとり教育」は考える力の育成を目的としていました。これと符合するように中学入試の世界では、それまでの重箱の隅をつつくような知識問題に替わり、考える力の育成を先取りして思考力を試す問題が主流になりました。例えば算数。かつては「○○算」の解法パターンを「自由自在」や「応用自在」でマスターしていれば中学入試に通用しました。

 しかし難関校を中心に自分でパターンを見つけ出して法則を導き、答えを見つける問題が出題されるようになってきています。その理由を理解するには子どもの置かれた社会的な状況を知る必要があります。そこで中学入試の問題で「考える力」を試すという流れが出てきたのはなぜかを考えてみましょう。

【現代の子どもを取り巻く環境】

 今の子どもは生まれたときから、さまざまに最適化された便利な道具に囲まれています。例えば製氷器つき冷蔵庫、ペットボトル飲料、食洗機など。かつて氷は氷屋が売りにくる物でした。その後冷蔵庫が普及して氷が家庭できるようになっても、製氷皿から氷を取り出したり水を張ったりしなくてはなりませんでした。それが今ではタンクに水をセットしておけば自動で氷がいつでも作られ取り出すだけになっています。

 自分の手で氷を取り出せば、かけらに触ればすぐに溶けるとか、水を一杯に入れていると膨張して隣の氷とくっつき取り出しにくくなるとか、氷を取り出す過程でその性質を肌で知ることができるのに、その機会が失われてしまっています。おもちゃや勉強道具にも同じことが言えます。 出来合いの物がなんでも手に入る社会は、面倒なプロセスはすべて外部に出されてしまっています。そんな環境に育つことで、結果を気にして早くゴールにたどり着かないと気が済まない子どもが増えています。それは次のような点に表れています。

  • ・テストの点数だけ気にする。
  • ・みんなができているのに間違えた問題があっても、点数が高ければ良しとしてしまう。
  • ・答えが合っているかどうか、「当たってる?」とまるでクイズのようにたずねる。
  • ・解き方が間違っていて偶然数字が合っても気にしない。
  • ・とんでもない数字でもおかしさに気づかない
  • ・計算間違いをして歩く速さが時速40kmと出ても平気。
  • ・わからないとすべて「おしえて!」と聞く。
  • ・どこがわからないかを考えたり説明するのが面倒くさい。

おそらく中学・高校でも入学してきた生徒のこのような変化に気づいたのでしょう。それが入試問題の変化に表れました。

【IT化が変えた勤労者の資質】

 では世の中の変化はどうなのでしょうか。高度成長経済下では処理能力の高い人材が必要とされました。大量の問題を限られた時間の中で解く力です。しかしコンピュータ化・IT化が進みそれが変わりました。

 企業では工場での製品組み立ての仕事が人手から自動機やロボットに置き換わったように、オフィスでの専門的な技能もコンピュータに置き換えられました。残るのは企画立案や開発設計といった機械化できない仕事です。かつて「ソフトウェアクライシス」がやってくると叫ばれました。社会のIT化が進むと、ソフトウェアを作るプログラマが大幅に不足するというのです。それにより経済活動が滞るとまで言われました。実際は高度なソフトウェアの知識がなくてもシステムが組めるようにするなどの技術が開発され、言われたようにはなりませんでした。

 しかしながら、従来よりも「頭を使う」仕事が増えたのは確かです。企業が業績を上げるには、他社にないものを先駆けて手がけることが必要です。そこでそのような人材が重視されます。したがって社会人として必要な資質が「処理能力」から「独創性」にシフトしてきたのです。

 教育における「考える力」の重視は、このような社会的要請でもあるわけです。

【アメリカ人は不器用?】

 もう一つ見逃せない変化があります。読み書き・そろばんといった基礎学力があまり必要でない社会になってきたことです。かつて日本では次のようなことが言われていました。「アメリカ人は暗算ができない。だからスーパーなどでお釣りを出すのに時間がかかる。」と。日本人は初等教育のおかげで四則計算で困るような人はほとんどいませんでした。

 しかし日本でもキャッシュレジスターの普及と共に、日常の買い物で釣り銭計算をする必要はなくなりました。コンピュータによる漢字変換機能の普及で漢字も書けなくなりました。文字も下手になりました。アメリカ人が不器用な最大の理由は、彼らがものぐさだからでしょう。決してけなしているわけではありません。通販番組などで様々な調理用器具を紹介しています。ほとんどのものがアメリカ発ではないでしょうか。

 彼らは創意を発揮して新しいものを作り出すのが得意です。道具を発明して自分の手を使わないから不器用なのでしょう。良い例がタイプライターで、だから手書き文字が下手なのだと思います。日本もかなりアメリカに近づいてしまいました。これからは努めて頭を使うようにしないと衰える時代に入ったと言えます。

< 例 >
 JRのスイカ(関西ではイコカ)を思い浮かべてください。駅で鉄道路線図を見て料金を調べ、それに見合う金額を自動販売機に入れて切符を購入していたのに、今や自動改札にかざすだけで支払いが済んでしまいます。全く頭を使う必要がありません。あらゆる所でこれに類することが起こっているのです。

ここまで「教育で考える力が重要視されてきた背景」を説明し、「考える力を衰えさせる社会の変化」について述べてきました。しかし考える力をそぐ要因はこれだけに留まりません。

【娯楽の変化】

 テレビが普及するまでは娯楽の中心はラジオでした。最近は高齢者や職業としてドライバーをしている人以外はラジオをあまり聞きません。読者の中にもう何年もラジオを聞いていない人もいるでしょう。

 ラジオとテレビの決定的な違いは言うまでもなく映像があるかないかです。ラジオでは映像がないために、リスナーが想像力を働かせて自分でイメージを作りながら聞きます。テレビでは始めから映像があるため想像力を働かせる余地がありません。最近ではスーパーインポーズで台詞が文字化され、音声すらも注意して聞く必要がないくらいです。当然予想されることですが、テレビによってイメージを喚起する力が弱まるでしょう。

【文字から映像へ】

 放送だけではありません。印刷物も小説からコミックへと主役が交代しています。かつては中年のおじさんが通勤電車でマンガを読むのは恥ずかしいという常識がありました。今では定年が近い白髪まじりのおじさんもコミックを読んでいます。

 コミックには台詞という文字もあるじゃないかという反論が出そうです。でもほとんどが会話であり、難しい概念を活字で述べているわけではありません。その点が書籍との決定的な違いです。

【情報の消費】

 マルチメディアを用いたリッチコンテンツが増えてきたとはいえ、インターネットは文字が主体です。インターネット利用者は文字をたくさん読んでいるから大丈夫なのでしょうか。携帯メールも同じです。

 いえ、十分ではありません。接している文の質が問題なのです。「マジ」「ウザイ」というようなワードが頻繁に出てくる会話をいくらしていても、改まった席で話す力がつかないように、きちんと構成された文章を読まないと考える力は鍛えられません。

 ある事柄について調べようと思えば、インターネット上には専門書に匹敵する知識がつまっています。私も何度もお世話になっています。例えば脳の働きについて知りたかったら、学会発表された論文の抄録が読めたり大学研究室のホームページに解説が掲載されていたりします。

 このような利用は本を読むのと同等ですが、大部分はその場限りで消費してしまう情報の利用しか行っていないのです。R25というフリーマガジンがありますが、1本の記事の文字数は800字以下にしているそうです。理由はそれ以上長いと読者に敬遠されるから。パソコンの画面もスクロールしないで読める範囲しか、読まれないという話も聞きます。

【イメージが支配する】

 深く考えずに大量の情報を消費していると、作られたイメージで判断してしまいます。この場合のイメージは先入観と言ってもよいでしょうか。養老孟司先生言うところの「バカの壁」です。安易に世の中に出回っているイメージ(レッテル)に振り回されずに判断する力をこども達に身につけて欲しいということはおわかりでしょう。

 長くなりましたので、今回はここまでを前編とします。「考える力が必要となったわけ」がわかったところで、次回は21世紀に必要な人材と考える力の中身、育て方を探ってみることにしましょう。

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