2020年大学入試改革と中学入試への影響
中学受験をしたいという生徒の学習サポートを、これまでも、そして今もしています。生徒によってそれぞれ中学受験のスタイルにも違いが有ります。
「大学入試改革と私立中学校選び」という記事で、中央教育審議会が答申した大学入試改革の概要についてお知らせしました。しかしながら、これが入試問題をどのように変えて、それが中学入試にどのような影響を及ぼすのか具体的にはよくわからないところがありました。そこで、中学入試がどのように変わるのかについて考えてみようと思います。
2020年の大学入試を受験する生徒はすでに中学に入学しています。当然来年度の中学受験生は、この新しい大学入試に臨まなくてはなりません。したがって、その影響は中学入試にも色濃く出てくると考えられます。
ところで、みなさんは「思考力入試」をご存知ですか。従来の算数国語理科社会の2科〜4科目入試とは異なる思考力を見る問題で合否を決めるものです。他にも2科目＋英語という帰国子女を意識した入試もあります。多様化する入試の中で「思考力入試」は異彩をはなっています。実施する学校も増えています。これはすなわち2020年大学入試改革を先取りして動き出したと考えられます。その結果、従来の中学受験の勉強とは異なる道で、私立中高一貫校に進学できるようになったとも言えます。公立中高一貫校を志望しつつ、私立中高一貫校をも併願しやすくなりました。
思考力入試を実施する学校は、かえつ有明・富士見丘・工学院大附属・聖徳学園など増えています。どのような問題が出されるのでしょうか。例えば過去問が公式サイトで公開されているかえつ有明と富士見丘中学の2015年度入試問題を見てみましょう。まずはかえつ有明から。
大問1「分けるという言葉から連想する言葉を○の中に書き込んでください」
イメージマップのような解答用紙の中心に「分ける」という言葉が書いてあり、その周辺の○に連想する言葉を書き込んでいきます。まさに正解のない問題の典型例です。採点基準がわかりませんが、おそらくできるだけ異なる視点の言葉がたくさん使われている、ユニークな発想の言葉が書かれている等の基準で得点が上下すると思われます。この年の同校の思考力入試は「分ける」がテーマの問題で統一されています。入試問題を貫くテーマがこのようにはっきり見えるのは従来の入試ではなかったことです（隠されたテーマということはありましたが）。
さらに、封筒の中に10種類の物品が入れられて配られ、それを分類する課題が出されました。以前からも一部の私立中学で、実物を使った問題は出されていましたが、ペーパー対策だけでは対応できない種類の問題ではないでしょうか。
続いて富士見丘中学です。
思考力Iは岸見一郎・古賀史健著「嫌われる勇気」というアドラー心理学からの引用文を読んで設問に答えるものですが、従来の国語の文章読解の範囲を超えていると思います。このまま大学入試の現代文で出題できるレベルの問です。本を読んでしっかりと考えることのできる生徒を求めていると考えられます。
思考力IIの問題は、とっても変わっています。ぜひ富士見丘中学のwebサイトで過去問をご覧ください。簡単に言うと、宇宙人が現れて「私」と筆談をするのです。その筆談から宇宙人の言語を読み解いていくものです。暗号の解読を宇宙人言語という形で示したもので、論理的な推論つまりロジカルシンキングができるかどうかが試されます。
さて、こうした問題を見ると、地頭は良いのだけれど従来の中学受験はしない、これまで取りこぼしていた考える力のある生徒を選ぶことができると思います。膨大な知識を処理して答えを出すタイプの知性ではなく、分析力と仮説を立て検証する力を持つ21世紀型の生徒です。2020年以降の大学入試で合格実績を高めるためには、思考力入試を実施しない学校でも、こうした思考力タイプの設問が出題されることが予想されます。これまでの過去問だけでは対応しきれない問題です。これから過去問演習をする際に、公立中高一貫校の過去問を加えてみるのはいかがでしょうか。問題のタイプとしては私学とは違う出題がされますので、変わった問題に出くわしても面食らわないで済むと思います。
また、来年以降の受験生は、志望校の選定の際に思考力入試というものも意識してみてはいかがでしょうか。これからの時代には思考力がカギとなるのは、間違いありませんから。大学入試改革の先には、社会人として思考力が求められていますので。
