中学入試の偏差値に関する迷信
今の中学入試と切っても切れないのが「偏差値」だ。ある意味一人歩きしていると言ってもいい。その結果「迷信」とでも言うべき誤解が生まれている。
迷信1◆模試の偏差値が高くないと偏差値の高い学校を受験できない
「うちの子は模試の偏差値が50前後だから60を超える学校は無理。」などと考えたりしていないだろうか?
これを検証するには、偏差値について知らなくてはならない。そもそも学力テストにおける偏差値はどのように誕生したのだろうか。かつて高校入試が大変厳しかった頃に遡る。教え子の中学生が予想に反して高校入試で失敗することに危機感を持った教師が、進路指導を勘から客観的な方法に変えようと偏差値を考案した。
これは統計的な正規分布の考え方を取り入れ、平均点を50点、標準偏差を10点となるように計算している。したがってその前提には
- ・得点のバラツキが正規分布する。
- ・標準偏差が10である。
という前提の元に成り立つものなのだ。この前提をよく考えると偏差値の迷信がよく解る。
試しに標準正規確率表を用いて計算してみよう。
偏差値 | 標準偏差10 | 標準偏差20 | 標準偏差5 |
---|---|---|---|
70 | 2.20% | 0.60% | 0.02%以下 |
65 | 6.60% | 22.60% | 0.13% |
60 | 15.80% | 30.80% | 2.20% |
55 | 30.80% | 40% | 15.80% |
50 | 50% | 50% | 50% |
この表の意味は乱暴に言うと、「平均点が50点のテストが3回分あったが、最高点と最低点のバラツキが4倍開きがある時、各偏差値以上の生徒がどのくらいの割合いるか」ということだ。(正確には最高と最低の差ではない。99%の生徒が±30点、±60点、±15点以内に入るという意味。)
表からわかるように、得点のバラツキにより同じ偏差値でも上位何%に入るかが大きく異なっている。同じ偏差値60の意味はテストによって全く違ってくる。実力が似通った受験生が多い学校は標準偏差が小さい場合に相当するし、試し受験が多い学校は標準偏差も大きくなるだろう。
正規分布していてもこれだけ差がある。さらに分布の偏りが加わるともっと怪しくなってくる。オーソドックスな出題をする学校は高得点側に偏るだろうし、トップ校の併願校では併願生と第一志望生が混在しフタコブラクダのように山が二つになるだろう。
迷信2◆80%ラインで志望校を決める
迷信1の説明でおわかりのように、偏差値というものは不動のものではなく、テストの性格によって異なるものだ。ただ母集団が大きく(受験生が多い)、似たような問題が出題される限りにおいては有効な方法と言える。
だから同じテスト会の模試では極端に偏差値が上下することは少ない。出題傾向が同じなのだから当然だ。そこでテスト会は過去の模試の偏差値と入試での合否結果を照らし合わせて、模試のこの偏差値ならば合格者○人、不合格者△人だから、合格可能性80%というようにデータを利用する。
この過去のデータの蓄積があるから合否が予想できるのだ。ということは、入試問題が大きく変わった際には過去の傾向が当てはまらないことがある。事実、開成が国語を記述中心に舵を切った年には、番狂わせが起きた。
また、模試で受験校として届けられることが少ない学校については、十分なデータがなく合格可能性の誤差が大きくなる。マイナーな学校を受験する場合は要注意である。
そこで志望校の決め方だが、テスト会の模試と似た出題をする学校は素直に合格可能性を信じて良い。入試問題にクセのある学校は、50%可能性があれば問題との相性で強気に受験しても良い。
例えばパッパと要領よく解くのは苦手だが、じっくり記述なら得意な生徒が記述重視で解答の途中経過に部分点をくれる学校なら、模試の合格可能性が多少低くても自信をもってぶつかろう。
逆に入試時間の割に問題量が多く処理スピードが要求される学校で、じっくり型の生徒であれば、80%偏差値がその学校に達していても安心できない。
このように「偏差値+出題傾向との相性」で出願するのが合格に近いやり方だ。塾に通っていない場合、塾がそこまで面倒見てくれない場合は、保護者が過去問を解いてみるとよい。解けなくても良いのだ。考えてみて解答を見ればいい。2,3年分見れば傾向がつかめるはず。お子さんのタイプと合っているかどうか確かめて志望校決定に役立てていただきたい。
繰り返しになるが、中学入試における偏差値は過去データと照らし合わせるための物差しでしかないことを知って、偏差値に振り回されずに中学受験に臨みたい。